【作品評】「まる」と「しかく」のあいだで。 (特別寄稿:映画ソムリエ 東紗友美)
【「まる」と「しかく」のあいだで。──あたたかな関係に、決まった形はない。】 『まるくてしかく』という、一見すると矛盾しているようで、不思議と心に残るタイトルにまず惹かれる。 「まる」と「しかく」。相容れない二つの形が並ぶことで、人は決して一面だけでは語れないこと、優しさと強さ、柔らかさと揺るぎなさのように、相反するものを抱えながら生きる存在であることまで想像させる。 作品を観終えたあと、このタイトルそのものが作品の本質を静かに映し出していたのだと気づかされる。 両親の離婚後、母・芽衣子(田畑智子)と離れて暮らす詩織のために、かつて母と埋めたタイムカプセルを探しに行く、中学生の二藤(大沢一菜)と詩織(照井野々花)。 二人にとっては見慣れた長野の景色なのだろう。しかし私たちにとっては、市営バスに揺られながら雪景色を進む時間そのものが、どこか不思議なショートトリップのように感じられる。 空へ向かってまっすぐに伸びるカラマツ。ぽつり、ぽつりと降りていく乗客。自分たちを乗せてきたバスにまで手を振る律儀な子供たち。「ご自由にお持ちください」と書かれた張り紙。そして雪景色を鮮やかに染める一本の赤いマフラー。 一つひとつの風景が、この物語の優しさを静かに積み重ねていく。 二人はタイムカプセルを探す。 「どんなかたち?」 「まるくて、ぴんくで、ちょっとしかく。」 「オッケー。」 そして、あたり一面にザクザクと雪を掘る音が響き始める。 宝探しは、自分探しの音に似ている。 タイムカプセルには母への手紙が入っているはずだった。しかし、思い出の場所をいくら掘っても見つからない。そこで二人は母に会いに向かう。 けれどその道中、小さなレストランで母が見知らぬ男性と再婚式を挙げている場面に遭遇してしまう。 詩織にとって、それはあまりにも突然で残酷な現実である。 それでも、この映画は誰かを責めない。 ただ、冬空へ向かってまっすぐに立つカラマツのように、人を愛し続けることの難しさを静かに見つめている。 子どもが大人になる瞬間とは、親を「親」という役割ではなく、一人の人間として見つめられるようになった時ではないだろうか。 父にも大きすぎる夢があったことを知った日。母にも、どうしようもないほど恋をした人がいたことを知った日。私はそのたびに、父も母も一人の不完全な人間なのだと思い知った。そして、その瞬間ごとに少しずつ大人になってきたのだと、この映画は静かに思い出させてくれる。 見つけられなかった手紙の代わりに、二人は雪の中で花火を打ち上げる。その意味は2人にしかわからない。それでも、大人が思う以上に、子どもは時に大人なのである。 「一生のうちに流せる涙の量は決まっている」 そう語る詩織に対し、二藤は涙の代わりに、自分の手の甲へ泣き顔を描いてみせる。 「私が泣いてあげる」と大きな言葉を口にするのではなく、少し笑わせながら、ただ隣にいてくれる。 そのささやかなユーモアには、慰め以上の優しさが宿っていた。 誰かを救うのは、いつだって立派な言葉ではなく、「一人じゃないよ」と伝わる、小さな仕草なのかもしれない。 二人はバス停で見つけた赤いマフラーを、たっぷりの水で丁寧に洗い上げる。 長い時間を経て汚れ、固くなってしまったマフラーが少しずつ柔らかさを取り戻していく。その姿を見ながら、人の心もまた同じなのではないかと思った。 傷ついた出来事は消せなくても、誰かの善意に支えられながら、自分の手で少しずつ洗い直していくことはできる。そうして人は、もう一度誰かを信じられる柔らかさを取り戻していくのではないだろうか。 小宮山菜子監督は「ばらばらのままでも一緒にいることができたらうれしい」と語っている。 自分なりの寄り添い方で詩織を支える二藤という存在そのものが、社会の「こうあるべき」という枠組みを静かに問い直している。 洗い終えた赤いマフラーには決まった形がない。その時々で姿を変えながら、人を温めてくれる。それは、人と人との関係そのものだ。 家族も、友情も、恋愛も、決められた「正しい形」に収まる必要はない。その時々で形を変えながら、それでも互いを温め合えればいい。 詩織は母を探す旅の中で、母という一人の人間に出会い直す。 タイムカプセルは最後まで見つからなかった。 けれど、あの日、二人が雪を掘り続けた時間は決して無駄ではなかったのだと思う。 宝探しは、自分探しの音に似ている。 二人が掘り当てたのは、埋められた手紙ではない。 母という一人の人間であり、自分自身の未来だった。 それゆえ、映画を見終えた後に心に残るのは「正しさ」ではなく「柔らかさ」なのだと思う。 私たちの人生もまた、まるくて、しかくて、割り切れない。 だからこそ、人は誰かと出会うたび、まだ知らなかった自分を少しずつ掘り当てていくのではないだろうか。 (特別寄稿:映画ソムリエ 東紗友美)
🎫舞台挨拶付きの劇場上映チケット販売中
https://linktr.ee/taxiater🚕日本初のタクシー映画祭「TAXIATER」 8月3日(月)より1週間、東京23区内のタクシー100台で撮り下ろしの短編映画3作品を先行上映💨 その後、8月15日(土)より期間限定の劇場上映(一部、舞台挨拶・特別対談付き)を開催予定! #TAXIATER
(撮影:髙木美佑)